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中国のヘルスケア産業、個人情報への「意識の低さ」が追い風に


2017-08-21

中国のヘルスケア産業、個人情報への「意識の低さ」が追い風に

 

中国のAI産業が急速な成長を遂げている。なかでも、ヘルスケア×AIの分野の成長は先進諸国を圧倒する勢いだ。

その背景にはさまざまな要因がある。例えば、年々増加する投資や政策面でのサポート、豊かな人材供給基盤、ビッグデータの蓄積などがそれにあたる。加えて、ヘルスケア×AI分野においては、意外なことに「個人情報に対する意識の低さ」も中国の強みとなっている。

個人情報のうち、病歴や処方薬情報など医療に関わる「身体情報」については、欧米各国を中心に厳重管理の必要性を求める声が高まってきている。だが中国は「プライバシー」に対する意識が他国とは異なるため、良くも悪くも実験的な試みやビジネスなどの成立が早いという実情がある。そんな中国のヘルスケア×AI分野は、今後、どのような方向に発展していくのだろうか。

中国政府は、国家戦略として医療およびヘルスケア産業を強化していくため、2020年に向けて「小康社会(いくらかゆとりのある社会)」、さらに2030年に向けて「健康中国2030」という方針を発表している。主な内容としては、高齢化や都市化が進み人々のライフスタイルが変化するなか、長期計画のもと「予防」に焦点を当てたサービス開発を支援していくというものだ。

前瞻産業研究院が発表しているレポートによれば、中国のヘルスケア産業は2016年時点で3.2万億元(約51.2兆円)規模となっている。今後、毎年約20%の成長率を維持し、2020年には8万億元(約128兆円)、2030年は16万億元にまで拡大するとの予想だ。

米国、日本のGDPに占めるヘルスケア産業の割合がそれぞれ15%、10%であるのに対し、中国はまだ5%足らず。成長余地が大きく、AIを含むテクノロジーとの融合によりさらなる産業拡大も期待されている。
 

 

なおヘルスケア×AIの肝となるビッグデータ活用については、政府が2015~2016年に数回にわたり「健康情報のデータ化促進」に言及している。2017年1月には「全国人口健康信息化発展計画」が発表され、国民の健康情報データ化のさらなる促進、サービス体系の確立などが国家戦略レベルに引き上げられた。深セン清華大学研究院国際部でディレクターを務める関係者は言う。

「ヘルスケア分野は深セン清華大学研究院(大学発インキュベーション機関)にとっても注目領域の一つです。我々が支援するプロジェクトの中にもヘルスケアビッグデータ収集・分析・可視化を行い高度医療サービスへ繋げるものがあります。人々のデータサンプル提供への積極性は比較的高いかもしれません。私も興味があり先日遺伝子検査を受けてきたところです」

中国政府がヘルスケア×AIの発展に積極的な姿勢をみせる流れは、急速に成長する国内医療系AIベンチャーの動きをさらに加速させるはずだ。

火石創造(医療系情報データベース)によると、中国の医療系AIベンチャーの数は2017年時点で138社。なお1998年から2013年までの15年間で37社が新たに誕生しているが、2014年からの3年間では101社が新たに同領域に飛び込んでいる。そのうちヘルスケア分野の企業は37社。これは診断補助サービスの41社に次ぐ数で、高い注目度がうかがえる。

新設の37社の中には、昨年テンセントなどから約170億円の資金調達に成功し、企業評価額が10億ドル(約1100億円)を超え「アジア最速のユニコーン企業」として注目されている「iCarbonX」も含まれる。

2015年10月に設立された同社は、中国の数百万人の生体情報を元にゲノム(全遺伝情報)解析などを行い、健康状態に合わせたヘルスケアサービス、またデータに基づく予防医学の提供を目指している。CEOのDr. Jun Wangは、現地メディアの取材に答え、次のように自社発展の思いを語っている。

「我々は2017年1月にデジタルライフ連盟を立ち上げ、関連企業7社へ合計約400万ドルを投資しています。この連盟はバイオ、ヘルスケア、塩基配列、そしてAIを融合させる全く新しいエコシステムです。目指しているのはAIによるヘルスケアデータ解析を通じて健康、疾患、老化に関する意味のあるシグナルを見つけ出し、健康な人生を送るためのパーソナル化されたガイドを提供することです。ガイドを通じて個人の経験が生物学と結びついていくことで、人々の生活習慣への意識が変わっていくでしょう。連盟企業でリソースを持ち寄ることでこの進化を加速させて行きます」

注目すべきは、iCarbonX社が深セン発の企業であることだ。現在、中国を代表するイノベーションシティーとなった深センだが、AI領域については北京の後発だった。医療AIベンチャーの分布を見ても、北京が約40%を占め、深センを含む広東は約10%となっている。

ただし、これからの数年間で、ヘルスケア×AI産業における深センの存在感は徐々に高まっていく兆候がある。理由としてはまず、「センサー・ウェアラブル端末」を安価かつスピーディーに開発できる恵まれた環境がある。データ取得の対象が人である以上、効率的で不快感のない端末が日々のデータ収集作業には求められるが、深センはその点で競争力を発揮する可能性を秘めているのだ。

ふたつ目の理由が、それら新しい端末を試してみたいという新しいモノ好きの人々が多い点だ。平均年齢が30代前半でライフスタイルをはじめ、変化に柔軟な若者が集まっている。彼らがマーケティングの対象、また流行の発信源として注目されていくだろう。
 

 

最後に「イノベーション力」が挙げられる。今年4月、深セン市は国家中医薬改革試験区を設立。中国医学・薬学という伝統的領域へのイノベーションを促進する拠点にしていく旨を発表している。中国医学の基本コンセプトは、日々の健康管理を予防につなげるというものだが、これはヘルスケア×AIが目指す方向とも一致している。歴史が長く蓄積のある中国医学研究とAIを代表とする先端テクノロジーの融合により、深センから革新的な事例が出てくる潜在性は高い。

AI産業への注目度が上がるにつれ、ますます過熱する中国のビッグデータ競争。優位性のある個人データやサンプル取得環境を武器に躍進する医療・ヘルスケアAI分野は、規模感・スピード感ともに年々勢いを増している。平均寿命において現状53位(2016年)の中国だが、2030年頃にはその順位が大幅に改善されているかもしれない。

 

出所:Forbes JAPAN  https://forbesjapan.com/articles/detail/17367/1/1/1