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TPP加盟によって「医療費」負担に起こりうること 完全自由化も


2015-08-22

■TPPは医療保険制度にも関係する

 太平洋を取り囲む環太平洋地域の国々の間で、経済の自由化を目的とする経済連携協定「環太平洋パートナーシップ協定(Trans-Pacific Partnership)」。今「TPP」と呼ばれ、注目を集めている協定です。

 TPPに加盟すれば、原則、関税はゼロになり、海外でも自由に企業が活動できます。医療分野でいえば、医薬品、医療機器の輸入、輸出です。現時点では、日本は医薬品と医療器具は輸入の方が多くなっています。サービスの点で言えば、医療保険が問題になります。

 TPPに加盟した場合、加盟諸国の医療制度の影響を少なからず受けることが考えられます。まずは他の環太平洋の国々の医療制度を見てみましょう。

■TPPに関連する国々の医療制度

□アメリカ

 医療保障は民間保険が中心。国民の約6割は雇用主が任意で提供する民間医療保険、約1割は個人で医療保険に加入しています。障害者や高齢者は公的医療保険メディケアに加入し、メディケアは、連邦政府が社会保障税で運営しています。2007年の時点で無保険者が約15%もいます。低所得者の公的医療保険はメディケイドと言い、これも連邦政府で運営されています。

 民間医療保険になると、年間保険料は自己支払いがあり、診療時にも自己負担があります。高額の場合は越えた部分ですべて自己負担になります。さらに、既往歴によっては医療保険に入れないこともあります。つまり、日本の民間医療保険みたいなものです。

□カナダ

 国民医療保険制度をメディケアと言います。州などが保険者で医療保険税など州税財源で運営しています。メディケアは急性期の入院費用と医師の診察費をほぼ全額補償しますが、歯科、薬剤費などは対象外のため、実際は自己負担は約3割です。専門医や病院の診療を受けるためにはかかりつけ医の紹介が必要です。

□オーストラリア

 国営医療制度であるメディケアは医療目的税を主財源とし、民間保険の併用を推奨しています。開業医を主治医に登録する義務があります。一般診療所の外来患者と主治医の紹介で専門医や公立病院を受診する場合は、その医療費はメディケアが支払いますが、公立病院の医師を指名できません。直接、公立病院に受診すると医師の指名ができますが、民間病院に受診するのと同じで、一旦すべて支払い、事後請求で診療費の入院なら75%、外来なら85%が返ってきます。

□韓国

 国民皆保険制で、保険者は国民健康保険公団です。国民健康保険公団の補償は、入院8割、外来は5~7割で、自己負担の比率が高いです。保険対象外の高度診療も多いため、補完的な民間医療保険が普及しています。混合診療もOKです。患者紹介制度で、高度医療機関への紹介なしの受診は保険適用外で自費になります。

□シンガポール

 国からの医療制度はなく、外来はほとんどが実費です。国民は、給料の何割かを国の管理下にある個人の口座に積み立てることが義務づけられています。「CPF(中央積立基金)」という強制積立貯金制度です。そこから医療費を出したり、あまり使わなければ、将来の年金になります。完全に個人主義です。

■TPP締結後、日本の保険制度でおきうること

 TPP締結後、日本の保険制度でおきうることをパターン別にまとめてみます。

□現状維持

 各国の事情があるため、そのままとして、制度は除外項目になる、という考え。その場合、制度は現状維持となりますが、現制度は医療費の上昇に耐えうるものではなくなっています。TPP締結による影響を受けなかったとしても、今後の医療制度改革を自ら行っていく必要があります。

□完全自由化

 TPP締結によって、民間医療保険が参入してくると予想されます。その場合、民間医療保険会社は利益を出さないと維持できませんので、参入する世代、職種などを限定してくる可能性があります。確実に保険料を支払って、給付が少ない世代、職種です。そして、低所得層や高齢者については、公的医療保険で補うことになります。

 今の民間の医療保険と同じですから、既往歴で医療保険への加入を拒否されたり、給付を限定してくる可能性があります。それによって医療格差が起こってくる可能性があります。医療保険に加入できない人へのセーフティネットを国が作る必要がありますが、その場合、今の税負担分より少ないのかしっかりと検証する必要があります。保険加入できない人が生じる点では、国民皆保険は維持できなくなります。

□一部自由化

 これはもっともありうるシナリオなので、しっかりと考えてみたいと思います。TPP締結によって公的医療保険と民間医療保険の併存が起きるというケースです。

 公的医療保険ではある一定の割合または病気によって給付が決まっており、それ以上は民間医療保険で補う形になると思われます。公的医療保険と民間医療保険との割合によっては、医療格差が生じる可能性があります。例えば、薬の費用は民間医療保険にすれば、民間医療保険料の支払いができない人は、薬なしまたは自費にある可能性があります。同じ病気でも経済的理由で受けられる治療に格差が生じることになります。

 公的医療保険はそのままで、さらに先進医療に対して民間医療保険を使う場合は、混合診療の解禁になります。ただし、先進医療には高額医療費がかかりますから、支払いが多いと予想されます。たとえば、がん治療で粒子線治療を受ける場合、自費では約300万円かかります。混合診療原則禁止の現状では、粒子線治療を行う場合、今の公的医療保険で適用されるがんの検査、化学療法、外科療法は自費になってしまいます。それを例外的に、粒子線治療が先進医療として認められると、公的医療保険で適用されるがんの検査、化学療法、外科療法は公的医療保険の適用になります。

 混合診療が可能なのは先進医療と認められた場合のみで、先進医療と認められない場合、すべて公的医療保険適用外になってしまいます。混合診療可能になれば、民間医療保険が公的医療保険適応以外をカバーすることになるのですが、当然、そこには、格差が生じます。300万円の治療が可能なら保険料は高いでしょうし、数万円の治療までなら保険料は安いでしょう。当然、年齢によって保険料も変わってくるでしょう。イメージとしては、今の生命保険、がん保険などをイメージすると判りやすいかと思います。

 どのような形であれ、国民が安心して生活を送って生きていける制度が望まれます。助け合いか、自己防衛か……。しかし、すでに少子化で今、助け合いの状態では維持できなくなっているのも現状です。これを機会に、今の医療制度について考えてみてはいかがでしょうか?

2015年8月20日 10時45分

http://news.livedoor.com/article/detail/10489773/?p=1