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1回だけ飲む新薬となるか、マラリアの薬「DSM265」がペルーで治療効果を検証中


2015-08-12

マラリアの予防と治療に1回飲むだけで効果のある新しいタイプの薬「DSM265」が登場するかもしれない。

 開発は順調に進んでおり、現在はペルーで治療効果の検証が行われているところだ。

多くの子どもが命を落とす「マラリア」

 米国テキサス大学サウスウエスタン医療センターを中心とした、米国、スイス、オーストラリア、スペイン、英国の共同研究グループが、世界的な科学誌サイエンスの姉妹誌サイエンス・トランスレーショナル・メディシン誌2015年7月15日号で報告した。

 マラリアは、マラリア原虫という病原体を持つ蚊に刺されて感染する病気。世界保健機関(WHO)によって、エイズ、結核と並び世界規模で流行が制御できない3大感染症に指定されている。

 報告されているだけで、毎年2億人近くがマラリアを発症している。マラリアを運ぶ蚊が生息している世界97カ国で、30億人もの人がマラリアの危険にさらされている。

 マラリアは高熱に苦しめられる病気。毎年世界で約60万人が死亡している。そのほとんどはアフリカのサハラ砂漠以南に住む5歳以下の子どもだ。子どもの大きな死因としても問題となっている。

主流の治療である「ACT」

 現在、マラリアの治療は主に「ACT」という方法で行われている。アルテミシニンという薬に他の抗マラリア薬を組み合せた治療法だ。

 最近、ACTによる治療が効かない、耐性を持つマラリア原虫がタイ、カンボジア、ミャンマー、ラオスで報告された。マラリア原虫は効く薬を見つけても、すぐに薬に適応し、薬剤耐性を獲得してしまうのが大きな問題となっている。他の国でも、いつ薬剤耐性のマラリア原虫が出現するか分からない状況だ。

 そのため、マラリアの治療では、マラリア原虫を殺す新しい薬を開発して、他の薬と組み合せて使うことで、原虫が耐性を獲得してしまうまでの時間をできるだけ長く保つのが重要なポイントになってくる。

1回飲むだけで

 「DSM265」は2008年に研究が開始されたばかりの、新しいタイプのマラリア治療薬。

 マラリア原虫が人間の血液や肝臓で増殖し、生きていくために欠かせない「DHODH」という酵素がある。「核酸合成酵素」という種類の酵素だ。

 DSM265は、DHODHを邪魔し、使えなくしてマラリア原虫が生きていられないようにする飲み薬。このタイプのマラリア治療薬で、実用化に向けて開発が進んでいるのはDSM265が初めて。

 大きな特徴は、マラリア原虫を確実に殺すので、薬を飲むのが1回だけで良いところ。1回の使用でマラリアの治療ができる薬は、DSM265が初めてとなる。

 将来的には、週1回の投与で感染の予防にも使う予定で、開発が進められている。

耐性のマラリア原虫をやっつける

 DSM265は、現在のACT治療に耐性のマラリア原虫に対する治療薬として期待されている。

 薬剤耐性の問題が起こりづらいようにするため、他の治療薬と組み合わせて使用する予定だ。他の治療薬をメーンにして、1回だけDSM265を飲むような方法を取る可能性が高い。

 予防薬として使う場合は、マラリア流行地への旅行者や、夏にだけマラリアが流行するような地域の住人を対象として、週1回飲む方法を考えている。

最適な用量を決定

 研究グループは、DSM265の最適な用量を決定するために、シャーレで培養した人間の赤血球や肝臓の細胞に、最も致死性が高い「熱帯熱マラリア原虫」を感染させて実験を行った。

 実験の結果、200mgから400mgのDSM265を1回飲めば、効き目が8日以上持続すると予測できた。

 薬剤耐性の熱帯熱マラリア原虫もDSM265で殺せると確認できた。

 次にネズミとイヌで実験を行い、DSM265は繰り返し飲んでも心臓に負担が来るなどの副作用が生じないと確認できた。

 また、DSM265を飲むことで、自身の遺伝子に突然変異が起きたり、自身の核酸合成酵素の働きが異常になったりもしないと確認できた。

いよいよ人間で検証開始

 DSM265の安全性と有効性が培養細胞や動物で確認され、いよいよ人間での臨床試験が始まった。

 既に、オーストラリアで、健康な人を対象に、薬を飲んで体に異常が起きないかどうか、安全性に関する試験が行われた。

 現在はペルーで、実際にマラリアにかかっている人を対象に、治療効果を評価する試験が行われているところだ。

 さらにいくつかの臨床試験が、既に計画されている。予防薬としての効果を調べる試験も計画されている。

ライセンスはスイスの「MMV」

 DSM265のライセンスは、ペルーでの臨床試験をリードしているスイスの非営利医薬品研究開発組織「メディシンズ・フォー・マラリア・ベンチャー(MMV)」にある。

 MMVはDSM265以外にも、世界中のさまざまな研究所や製薬会社と共同で、マラリア新薬の開発に取り組んでいる。

 止まらない「薬剤耐性」と「新薬開発」のいたちごっこに終止符が打たれるときは来るのか。

 5歳を迎えずにマラリアで亡くなっている、多くのアフリカの子どもたちが救われるためにも、新薬の登場に期待が持ち上がっている。

文献情報

Drug shows promise as single-dose cure and as preventive treatment for malaria, researchers find

http://www.utsouthwestern.edu/

Phillips MA et al. A long-duration dihydroorotate dehydrogenase inhibitor (DSM265) for prevention and treatment of malaria. Sci Transl Med. 2015; 7: 296ra111.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26180101