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ニュース: 医療機器、成長産業へ第一歩 参入障壁「薬事法」改正へ


2013-10-16

日本経済の次なる成長エンジンとして、医療機器分野への期待が高まっている。実際、ソニーやセイコーエプソンなど同分野への進出をもくろむエレクトロニクス関連企業が近年急増している。ところが、そこには問題がある。「薬事法」が、こうした新規参入企業の前に障壁として立ちはだかっているのだ。この薬事法の改正が、いよいよ現実のものとなりそうだ。2014年内にも施行される改正薬事法は、医療機器業界の発展を加速するだけではなく、エレクトロニクス業界にとって大きな後押しになりそうだ。

 

 

スマホとの連携を前提にしたシステムなど、新たな概念の医療関連機器が続々と登場している

スマホとの連携を前提にしたシステムなど、新たな概念の医療関連機器が続々と登場している

 

 「iSpO2」――。米Amazon.comの電子商取引(EC)サイトからは、このような名前の商品を誰でも購入できる。価格は249米ドル。購入サイトの画面を見れば、「iPhone」などと組み合わせて使う商品であることがたやすく分かる。

 

 

図1 Masimoがインターネット販売しているスマホ用のパルス・オキシメーター「iSpO2」(a)。Amazon.comで誰でも購入できる(b)(写真:Amazon.comのECサイトから)

図1 Masimoがインターネット販売しているスマホ用のパルス・オキシメーター「iSpO2」(a)。Amazon.comで誰でも購入できる(b)(写真:Amazon.comのECサイトから)

 この商品の正体はiPhone向けのパルス・オキシメーターである(図1)。パルス・オキシメーターは、洗濯ばさみのようなセンサーを指先に装着して血中酸素濃度(SpO2)などを測定する医療機器。iSpO2は、このセンサー部分を切り出した商品だ。これをiPhoneに接続すれば、アプリ上でスマートフォン(スマホ)がパルス・オキシメーターとして機能する、といった具合である。

 

 かつて大手医療機器メーカーで活躍し、パルス・オキシメーターにも詳しいケイ・アンド・ケイジャパン 代表取締役社長の久保田博南氏は次のように語る。「パルス・オキシメーターも、ついにここまで来たのかというのが第一印象だ。こうした製品がインターネットで簡単に購入できることに意外性を感じずにはいられない」。

 

■新概念の医療機器が続々

 久保田氏のコメントが示すように、ここ数年、新たな概念の医療関連機器が目立つようになってきた。冒頭の事例はその一つだ。iSpO2のように既に発売されているものから試作段階のものまで、雨後のたけのこのごとく続々と登場してきている。特に、スマホとの連携を意図した機器など、エレクトロニクス関連機器の進化と密接に連動しているものが少なくない。

 

 同時に、エレクトロニクス関連企業が医療機器分野に新規参入を目指す動きも、ますます活発になってきている。ソニーやセイコーエプソンといった機器メーカーから、村田製作所やロームといった電子部品メーカーまで枚挙にいとまがない。

 

 このように今、エレクトロニクス関連の機器や企業の動きによって医療機器分野を取り巻く状況が大きく変わろうとしている。こうした中で、今まさに進んでいる見逃せない議論がある。それは、「薬事法」の改正だ。

 

■改正は日本の成長戦略の一環

 薬事法は、他の分野には存在しない独特の“作法”として、エレクトロニクス関連企業が医療機器分野に参入する上での障壁と指摘されることも多かった。その改正案が、2013年5月に閣議決定したのである(図2)。

 

図2 2013年5月に閣議決定した薬事法の改正案では、これまで同じ条項で扱ってきた医療機器と医薬品を別々に規定することになった(a)。このうち医療機器については、ソフトウエアを医療機器の範囲に加えることなど、幾つかの改正点がある(b)

図2 2013年5月に閣議決定した薬事法の改正案では、これまで同じ条項で扱ってきた医療機器と医薬品を別々に規定することになった(a)。このうち医療機器については、ソフトウエアを医療機器の範囲に加えることなど、幾つかの改正点がある(b)

 

 改正案は、近く国会において採決される見通し。可決されれば、公布から1年以内に施行となる。早ければ2014年内に施行される可能性もある。

 

 

図3 今回の薬事法改正とエレクトロニクス関連企業の関係を示した。基本的には、エレクトロニクス関連企業の新規参入や新たな概念の医療機器の市場拡大を後押しすることを狙ったものと位置付けられる

図3 今回の薬事法改正とエレクトロニクス関連企業の関係を示した。基本的には、エレクトロニクス関連企業の新規参入や新たな概念の医療機器の市場拡大を後押しすることを狙ったものと位置付けられる

 今回の薬事法改正はもともと、医療機器分野を今後の国内経済再生に向けた重点産業に位置付けようとする成長戦略の一環でもある。このため、改正の内容を端的に言えば、前述のような新規参入企業の増加や新たな概念の医療機器の登場などを後押しすることを見据えたものになっている(図3)。

 

 すなわち、エレクトロニクス業界にとってみれば、基本的には“追い風”の改正と言えそうだ。「今回の薬事法改正は、我々にとって新たな市場を創出できるチャンスとして期待している」(ある大手電機メーカーの技術者)という声は少なくない。

 

■名称に「医療機器」が入る

 では、改正案の内容は、具体的にはどのようにエレクトロニクス関連企業に影響してくるのだろうか。

 

 まず、今回の薬事法改正の目玉となる重要なポイントは、これまで同一の条項で扱われてきた「医薬品」と「医療機器」を別々の章で規定するようにしたことだ(図2(a))。現在の薬事法は主に医薬品を想定して策定されたものであるため、医療機器開発の実態に沿っていなかった。その課題解決を図ろうというのである。

 

 具体的には、医療機器は数多くの電子技術の組み合わせで完成するものであり、民生機器などと同様に、常に改良・改善を重ねながら開発を進めていく。この点が、化合物の組成が決まれば、その後の変更がほとんどない医薬品とは大きく異なる。にもかかわらず、現在の薬事法では細かな改良・改善に対しても煩雑な手続きが求められることなどから、医療機器の活発な開発を妨げる一因として指摘されていた。

 

 そこで、医療機器ならではの開発特性を踏まえ、医療機器に特化した章を設けたのだ。それを象徴するのが、薬事法という名称自体を「医薬品医療機器等法」(正式には「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」)に変更し、名称に医療機器という言葉を入れた点である。

 

 複数の医療機器業界関係者は「これまで医療機器は『おまけ』という感じだった。名称に医療機器が入ったことは、名実ともに意義がある」と口をそろえる。まさに、医療機器分野を成長産業として明確に位置付ける政府の意思の表れと言えそうだ。

 

■三つの注目点あり

 このように医薬品と分離される医療機器の章における注目点としては、主に次の三つが挙げられる。すなわち、(1)製造業を許可制から登録制にする、(2)民間の第三者認証機関を活用した認証制度の対象範囲を拡大する/QMS(quality management system)調査を合理化する、(3)ソフトウエア(単体プログラム)を医療機器の範囲に加える――である(図2(b))。

 

 このうち(1)と(2)は、大まかに言えば、いわゆる薬事法の許認可のハードルを下げようとするものだ。新規参入を目指すエレクトロニクス関連企業などにとっても好都合の改正と言える。一方、(3)は、これまで扱いが明確になっていなかった単体のソフトウエアについて規定しようとするもの(表1)。例えば、スマホ向けの医療用アプリなど、冒頭のiSpO2のような新たな概念の医療関連機器の位置付けにも関わってくる改正である。それぞれの中身について、以降で順に見ていこう。

 

表1 ソフトウエアの分類と今回の議論の対象。○は規制対象、×は規制対象外。赤枠内が今回の新たな議論の対象(表:厚生労働省の資料を基に日経エレクトロニクス誌が作成)

表1 ソフトウエアの分類と今回の議論の対象。○は規制対象、×は規制対象外。赤枠内が今回の新たな議論の対象(表:厚生労働省の資料を基に日経エレクトロニクス誌が作成)

 

■「業許可」のハードル下がる

 (1)と(2)に関連する薬事法の許認可については、実際には二つの要素がある。企業としての「業許可」の取得と、製品に関する「承認・認証」の取得である。(1)の製造業を許可制から登録制にするという改正は、前者の企業としての業許可についてのものだ。

 

 業許可は、医療機器の開発・製造・販売などの過程の中で、その企業が手掛ける内容に応じて取得が必要なもの。「製造販売業」「製造業」「販売・賃貸業」などがある。この中で、製造業は「製造工程のみを自社で行う」企業が取得すべきものだが、「自らがメーカーとなって出荷責任を負い、製造工程の全部または一部を自社工場で行う」企業にとっても、製造販売業と合わせて取得が必要になる。

 

 つまり、医療機器の製造に何らかの形で関わる企業には必須の許可である。この要件を許可制から登録制に改めることで、製造業取得のハードルを下げ、業界の活性化を促そうというわけだ。

 

■第三者認証が拡大

 業許可の取得と並ぶ薬事法の許認可のもう一つの要素が、医療機器の品目ごとの承認・認証の取得である。これに関連した改正が、(2)の民間の第三者認証機関を活用した認証制度の対象範囲を拡大する/QMS調査を合理化するという点である。

 

 医療機器の承認・認証については、医療機器のリスク分類(クラス)に応じて、必要な承認・認証の種類が異なる(図4)。例えば、人体へのリスクが少ない一般医療機器の場合は届け出だけで済む一方で、人体へのリスクが最も高い高度管理医療機器の場合は、厚生労働大臣による承認が必要だった。厚生労働大臣による承認とは、具体的には「PMDA(医薬品医療機器総合機構)」の審査に合格することを指す。かねて「デバイス・ラグ」などと称され、審査に長い時間がかかると指摘されているのがそれだ。

 

図4  医療機器の許認可の方法には、リスク分類に応じて「届出」「第三者認証」「大臣承認(PMDAで審査)」がある。今回の薬事法の改正では、このうち第三者認証の範囲が大きく拡大する(図: 厚生労働省の資料を基に日経エレクトロニクス誌が作成)

図4  医療機器の許認可の方法には、リスク分類に応じて「届出」「第三者認証」「大臣承認(PMDAで審査)」がある。今回の薬事法の改正では、このうち第三者認証の範囲が大きく拡大する(図: 厚生労働省の資料を基に日経エレクトロニクス誌が作成)

 

 今回の改正では、PMDAの審査による承認が必要だった高度管理医療機器の一部を、独テュフラインランド、JQA、JETなどといった民間の第三者機関を活用した認証に変更する(図4)。この第三者認証は、これまで主に人体へのリスクが中程度の管理医療機器において実施されてきたもの。この変更により、許認可の迅速化や手続きの簡素化などを狙おうというわけだ。

 

 さらに、このような医療機器の認証取得に当たり不可欠だったのが、QMSと呼ばれる品質体制の審査である。このQMS審査の合理化も併せて実施する。これまで個別製品ごとに必要だった審査を製品群(医療機器の特性などに応じて分類したもの)単位にすると同時に、ある製品でQMSの審査に適合している場合は同じ製品群の審査を原則免除するといった具合である。

 

■議論呼ぶソフトウエア

 (3)のソフトウエア(単体プログラム)を医療機器の範囲に加えるという改正については、現在、さまざまな議論が巻き起こっている。例えば、「これまでグレーゾーン(扱いが不明瞭)だったものが明確になるのだから、二の足を踏んでいた企業も参入しやすくなる」という声がある一方で、「規制の対象にするという話である以上、運用を一歩間違えると単なる規制強化になってしまう」など多様な声が関係者から聞こえてくる。

 

 もっとも、この改正の具体的な中身については、「医療機器の範囲に加える」という以上のことは、現時点ではほとんど固まっていない(表1)。実際、単体のソフトウエアと一口に言っても多様なものが存在する。このうちどのようなソフトウエアを医療機器の範囲とし、あるいは範囲外とするのか。また、それらをどう運用していくのか。まさに、これから検討が進む段階なのだ。だからこそ、多くの議論や不安が渦巻いている段階とも言えるだろう。

 

 経済産業省は2012年度に「医療用ソフトウエアに関する研究会」を開催し、2013年3月に中間報告書を公開した。そこには、ソフトウエア(単体プログラム)を「A:薬事法の適用(医療機器の範囲)」「B:ガイドラインに基づく自主規制」「C:規制なし」の三つに分類するという考え方が示された(図5)。今後は、この考え方をベースにして、まずはAの対象になるソフトウエアの明確化や、その運用などについて改正薬事法の施行までに急ピッチでの検討が進むとみられる。

 

図5  経済産業省の研究会における中間報告書で示された、単体ソフトウエアの判断フロー(a)と分類マップ(b)を示した(図:経済産業省の資料を基に日経エレクトロニクス誌が作成)

図5  経済産業省の研究会における中間報告書で示された、単体ソフトウエアの判断フロー(a)と分類マップ(b)を示した(図:経済産業省の資料を基に日経エレクトロニクス誌が作成)

 

■センサーの市場拡大にもつながる

 

図6 東芝のワイヤレス生体センサー「Silmee」。体に貼り付けるセンサー部と、タブレット端末に測定データを表示させるアプリで構成する。2013年3月に開発を発表した

図6 東芝のワイヤレス生体センサー「Silmee」。体に貼り付けるセンサー部と、タブレット端末に測定データを表示させるアプリで構成する。2013年3月に開発を発表した

 これらの議論に実際に関わっているある関係者に、一例として図6に示した東芝が開発中のワイヤレス生体センサー「Silmee」について、どのような可能性があり得るのか聞いた。要点は以下の通りである。

 

○ タブレット端末にインストールするアプリは、Aの薬事法の対象

○測定データを一切に見せずに単に「ストレス度」などを示すアプリなら、Bのガイドラインに基づく自主規制の対象かもしれない

 

 つまり、現時点ではあくまで可能性の話にすぎないが、このようなアプリについても(1)や(2)の改正点の説明時に紹介したのと同様に、企業は必要な業許可を取得し、医療機器として製品の許認可を取得する必要が出てくるというわけだ。ただし、前出の関係者はこう続ける。「もちろん、こうしたアプリを開発する企業に対して、機器を製造するメーカーと同じような審査の仕組みがなじむとは思っていない。実態に即した運用の内容にしていくことは欠かせないだろう」。

 

 間違いなく言えるのは、多様なソフトウエアが登場する可能性が広がることだ。なぜなら、Silmeeのような構成の場合、これまでの薬事法のようにハードウエアありきではないため、センサー部とは切り離してアプリ部分だけをどんどん更新したり、さまざまな企業が対応アプリを提供したりできるようになるからだ。結果として、センサー部分の市場拡大にも結び付くことになる。エレクトロニクス関連企業にとっては、引き続き改正の動向を注視していく必要がある。

(日経エレクトロニクス 小谷卓也)

 

 

[日経エレクトロニクス2013年8月19日号の記事を基に再構成]

2013/10/15 日本経済新聞 電子版 

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0701T_X01C13A0000000/