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ニュース: 【世界に挑む 日の丸医療】第1部 積み上げた実績(1)黒子に徹し人材育成


2013-09-29

肌を刺すような太陽が照りつけるアフリカ・ザンビア共和国の首都ルサカ。テント張りの商店や粗末な家屋が雑然と広がるスラム街の一角に、月に1度、親子連れでにぎわう教会はあった。乳幼児向け健診が開かれるのだ。今月は8日だった。

 薄暗く、暑さがこもる石造りの建物内。何列にも並ぶベンチは順番待ちの母親たちがおしゃべりに興じる。子供の泣き声と重なり騒然とした雰囲気だ。

 「離乳食のおかゆは濃度もしっかり指導して」「今日は、ビタミンAをあげる子が少なさそうね」。そこで、現地のボランティアスタッフを優しく指導する日本人女性医師の姿を見つけた。

 日本の非政府組織(NGO)「AMDA社会開発機構」のメンバー、小児科医のカエベタ亜矢(43)だ。国際協力機構(JICA)の委託を受け、乳幼児の死亡を減らす事業に携わっている。主な仕事は保健当局への政策アドバイスだ。

 日本の貢献スタイルは、世界の中でも特異だ。積極的に現場に足を運ぶが、健診は現地スタッフ任せ。経験を積まなければ、人材は育たないとの思いからだ。

 カエベタは「自分で問題を解決する意欲や能力を身に付けてほしい。さもないと、日本人がいなくなったら、医療や保健改善事業を続けることができなくなる」と語る。

 指導のかいあって、教会のボランティアたちは手際がよい。嫌がる赤ちゃんを布袋でつり下げ体重を量り、栄養失調になっていないか母子手帳の数値と見比べる。実演交じりで離乳食の作り方を教える男性スタッフの周りには、母親たちの大きな輪ができた。

 カエベタのやり方を、ンゴンベ保健センター施設長のイグニシャス・ブロンゴは「欧米の団体と違い、お金だけでなく、(保健改善のための)ノウハウを持ってきてくれた。日本の支援が終わっても、私たちだけで続けていける」と高く評価する。

 

 黒子に徹する“日本流”は、ザンビアの人々の心を確実につかんでいる。

 ■エイズ治療 現場で直接指導

 小児科医のカエベタ亜矢がザンビアに渡って13年がたつ。きっかけは偶然だった。東京で勤務医をしていたとき、かつての職場である東大医学部から「予定していた医師が行けなくなったので代わりにどうか」と打診された。国際協力事業団(現国際協力機構、JICA)の小児保健支援事業のメンバーだった。「国際貢献活動に携わるのが夢でした」。ザンビア行きに迷いはなかった。

 ◆「一番のやりがい」

 穏やかなザンビア人気質が好きになり、2002年に不動産会社を営む現地の男性と結婚。事業が終わってもザンビアに残り、エイズ研究などに関わった。感染症が蔓延(まんえん)しているにもかかわらず、医師や看護師が圧倒的に足りないアフリカ。見捨ててはおけなかった。

 その後、AMDA社会開発機構が小児保健の支援事業をJICAから受託したことを知る。小児保健は「もう一度携わりたい」と願っていた分野だ。11年2月、メンバーに加わった。

 国際医療支援において日本政府の動きは機動的とはいえない。その取り組みの遅れを穴埋めしてきたのが、AMDAのような非政府組織(NGO)だった。臨機応変に現地ニーズに応えられる。カエベタにも都合がよかった。

 東京で仕事を続けていても社会的地位や安定した収入は得られたはずだ。だが、ここではスラム街に行けば、子供たちが大騒ぎしながら「ムズング(白い人)!」と声をかけて迎えてくれる。自分が必要とされていることを実感する瞬間だ。「結局はこんな単純なことが一番のやりがいで、仕事を続ける原動力になっている」

◆自然体で寄り添う

 ザンビアで活躍中の日本人医師がもう一人いる。独立行政法人・国立国際医療研究センターの内科医、宮野真輔(37)だ。

 首都ルサカから南西に360キロ離れたカロモ郡。その中心地から悪路を何時間も車に揺られて村の保健センターにたどり着いた。

 宮野たちの車を待ち構えていた人々は、喜びのあまり踊り出す。お目当ては荷台に積まれたエイズ治療薬や検査キットだ。

 ザンビアでは15~64歳の1割がエイズに感染しているとされる。ところが、地方住民は何日も歩いて病院に行かなければならない。そこで考え出されたのが医師や看護師が、各地域の保健センターを巡回する仕組みだ。

 宮野の仕事は、エイズの治療や検査にあたる現地の医療スタッフを指導し、現場の声をザンビア政府に伝えることだ。カエベタと同じく、見守りに徹する。

 しかし、現地スタッフの診察はもどかしい。「元気? 調子はどう?」。症状を積極的に聞き出そうとしない。どうしたら効果的な診察ができるようになるのか。宮野はヒントを与えて気付かせていく。

 10年から事業に参加した宮野。自分が現場に一緒に出向くことを、ザンビアの人々が感謝するのは意外だった。「米国のプロジェクトでは、雇用したザンビア人を遠隔操作で巡回させたり、必要なデータを集めさせたりしている。『現場で直接、技術的助言を得られるのは日本人だけだ』と、郡保健局の担当者からよく言われます」

 旅行好きの宮野が国際医療に関心を抱いたのは学生時代。「アジア旅行で医療の不平等性を感じ、何とか解消したいと思った」という。

 カエベタと宮野に共通するのは「困っている人の役に立ちたい」との思いだ。世界の恵まれない人たちに常に寄り添う。2人の姿勢はどこまでも自然体だ。(敬称略)

                   ◇

 

 途上国に寄り添う日本の国際医療貢献は、世界の尊敬を集めてきた。だが、これまで勝ち得た信用は、医師たちの個人的努力によるところが大きい。安倍政権が「医療」を成長戦略の柱に位置づけるなかで、「日の丸医療」が今後進むべき道を考える。第1部では海外の医療現場で積み上げた実績に焦点を当てる。

 

msn 2013.8.28

http://sankei.jp.msn.com/life/news/130828/trd13082807380002-n1.htm