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【ASEAN】ベトナム医療は魅力的な投資機会か?(1)


2017-08-16

【ASEAN】ベトナム医療は魅力的な投資機会か?(1)

7月14日のNNA記事「外国ファンド、FV病院に大型出資へ」(https://www.nna.jp/news/result/1635042)によると、フランス人医師がホーチミン市で立ち上げたFV病院が、シンガポールとインドに拠点がある民間ファンド、クアドリア・キャピタルから数千万米ドル(1,000万米ドル=約11億3,500万円)の出資を受けるという。

FV病院は2003年にフランス人医師のグイロン院長らが設立し、ホーチミン市7区フーミーフンに本院がある。診療科は30以上あり、病床数は220。ベトナム人だけでなく、カンボジアやラオス、ミャンマーからも患者が訪れている。

一方、クアドリア・キャピタルは、運用資産は15億米ドルを有する民間ファンドで、医療分野を中心に投資を行っており、アジア太平洋の7カ国・地域で18案件に投資している。

なお同記事によると、「出資の詳細は明らかにされていないが、クアドリアの創業者兼社長のアミット・バーマ氏によると、出資期間は最大5年。手始めに向こう1年で1,000万米ドルを投じて新たな診療所を設立するとともに、医療設備の更新、医師などの人材拡充を図る」という。

またFV病院はクアドリアの出資を通じて、中部や南部メコンデルタ地方の10カ所で診療所を立ち上げる。ジャンマルセル・グイロン院長は「来院する患者の2割は、近隣省や中部、南部から来る。地方進出により、患者の時間節約や健康に貢献できるとともに、ホーチミン市の本院の医療水準も維持できる」と説明している。

 

■ベトナムの医療環境は投資対象としてどこまで魅力的なのか

 

投資リターンに対して厳しい結果が求められる民間ファンドがベトナムの病院に投資をするということは、そこにそれだけの十分なリターンが期待できるからだろう。また、この記事にあるように、FV病院は2003年の段階でフランスに診療機関をオープンして、14年以上事業展開を行っている。それ以外にも、外資のベトナム医療に関する進出記事が散見され、ベトナム医療に対する投資機会としての高まりを感じる。一方で、現地でヒアリングを行うと、進出はしたもののうまくいかず撤退した医療機関の話も聞こえてくる。

果たしてベトナムの医療関連業界は、日本を含む海外の企業や投資家にとって魅力的な事業機会なのだろうか。

今回のシリーズでは、ベトナムの医療環境や競争環境、医療現場の状況を見ながら、特に下記の主要な点にフォーカスしながら事業機会としてのベトナム業界について探っていく。

(1)ベトナムの医療環境

(2)医療制度や主要な医療機関

(3)医療現場の状況

(4)ベトナム市民の医療に対する意向

(5)外資進出に係る制約事項

(6)投資対象としてのベトナム医療関連業界魅力

医療といっても、そこには医療サービスから医療機器、製薬、医療教育など幅広い分野を包含する。このシリーズでは、その中でも医療サービスによりフォーカスして見ていきたい。さて、今回はその第1回目として、ベトナムの医療環境、特にその前提となる人口動態について説明する。

 

■日本、タイとの比較から見るベトナムの人口動態

 

人口動態が、医療環境に密接に関係することは、高齢化社会真っただ中の日本においては、もはやその説明を要しないだろう。高齢化が進むことによって、患者人口の拡大が起こり、医療機関の拡充が要求される。医療環境の需要面で大きな要因になる。

ベトナムは、東南アジアの新興国として、成長著しい若年人口の多い国としての印象を受ける。果たして実際どうなのだろうか。

下記は、日本、タイ、ベトナムの人口ピラミッドの比較だ。今回3か国の人口ピラミッドの形の違いが分かりやすいように、それぞれ横に並べてある。

ここで見る通り、日本、タイ、ベトナムの順番で、高齢化社会に入りつつある。その結果、人口の増加についても如実に今後その影響が出てくる。図表2は、上記3国にお行ける今後の人口予想だ。

一番上の黄色い線が日本だが、既に人口減少が始まっている。その下の灰色の線がベトナムだが、2050年ごろにはおおよそ日本の人口と肩を並べる水準まで上がることが予想されている。

ただ今回注目すべき点はそこではない。ベトナムが日本と人口に追いつく2050年ごろ、ベトナムの人口増加がほぼフラットになっていることだ。つまり、ベトナムも人口成長がそのころ最大を迎えることが予想されるのだ。その点を見るために、図表3にはベトナムの人口予想と今後の人口成長率のグラフを掲載している。

2014年までが年次での記載で、その後の年の予想が2030年、2040年、2050年となっている点に留意する必要があるが、2000年代は年率1%程度で増加していた人口が、その後2030年には0.5%と半減し、2050年にはついに0%となっている。つまり、ベトナムにおける人口増加時代の終焉だ。

 

■高齢化社会待ったなしのベトナム

 

2050年には人口減少時代に突入するベトナム。この意味することは何か。それは、一般的な印象とは裏腹に、ベトナムにおける高齢化社会突入は、実は喫緊の課題であることだ。

日本においては、65歳以上の全人口に占める割合が25%を超えたことが、数年前に話題になった。果たしてこの現在の日本の高齢化と同じ状況に、タイ、ベトナムはそれぞれいつ頃到達するのだろうか。

図表4は、日本、タイ、ベトナムにおける、65歳以上人口の全人口に占める割合、すなわち高齢化率を表している。

ここで、65歳以上が全人口の25%に到達するラインを、黄色のハイライトの横線で引いている。総務省の発表によると、2017年1月1日時点の日本における65歳以上の全人口に占める割合(高齢化率)は約27.4%だ。タイが今の日本のレベルの高齢化社会に突注するのは2040年ごろ、そしてベトナムは2050年には高齢化率が23.1%まで到達する。つまり、2050年代にベトナムは今の日本とほぼ同じ水準の高齢化社会を迎える。

問題は、そこに至るまでのスピードだ。65歳以上が国民全体の人口に占める割合が7%から14%まで倍加するのにフランスは115年、スイスで70年かかった。ベトナムの2010年の高齢化率(65歳以上の全人口に占める割合)は6.5%だったが、そこからわずか15年程度で、14%の水準に到達する。つまり、ベトナムの人口は世界史上比較しても相当な速度で高齢化しているのだ。

ベトナムはあと35年もすれば日本規模の人口を有する高齢化社会に突入する。従って、人口構造的にはそれなりの規模の患者数になることが予想される。一方で患者数だけが医療環境の決定要因ではない。次回以降はそれ以外の医療環境の構成要素を見ていきたい。

 

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学および生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。

12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリーおよび業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。

 

出所:NNA ASIA