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ニュース:病院丸ごと世界に輸出、日本式で新興国開拓


2014-08-24

新潮流をつかむ(1) 病院丸ごと世界に輸出 主戦場は新興国 日本式で劣勢挽回

 
 世界トップクラスの長寿国、日本。その実現に大きな役割を果たした医療が今、揺らいでいる。膨大な費用負担、世界的な薬や技術の開発競争、多様化する患者のニーズ。難問を前に将来の展望が開けない。再び世界に誇れる「医出づる国」はつくれるのか。大胆な改革が求められている。

 

 急速な発展への期待から「アジア最後のフロンティア」と呼ばれるミャンマー。7月25日、首都ネピドーで一通の覚書の締結式が開かれた。

 

 同国最大都市ヤンゴンに日本式の病院を開くための覚書だ。藤田保健衛生大学がかかわるNPO法人、国際医療連携機構(名古屋市)と同国保健省が署名した。手始めに日本の先端医療機器を備え、日本人医師が指導する救命救急センターや人間ドックをつくる。東芝グループや日本総合研究所などに参加を呼びかけ、具体化を進める。

 

8%超える伸び

 

 ロシア極東のウラジオストクでは昨年5月末、日本製の磁気共鳴画像装置(MRI)を備えた検診センターがオープンした。北海道帯広市の北斗病院が運営の中心となりロシアでまだ珍しい予防医療の観点から受診者の脳や心臓を調べる。

 

 開始1年の受診者は約6千人で、当初予定を1割上回る。次は「来年にも脳卒中の後遺症などで悩む患者向けに日本式リハビリテーションを提供する医療施設をつくる」(社会医療法人北斗の鎌田一理事長)という。

 

 カザフスタンのがん検診センター、インドネシアの糖尿病クリニック、サウジアラビアの透析センター。このところ日本からの新興国への病院輸出計画が相次ぐ。経済産業省によると、その数は約50件に及ぶ。

 

 背景にはアベノミクスの成長戦略がある。世界の医療市場はここ10年、毎年8%以上の伸びを示し、2010年で520兆円の規模とされる。

 

 かたや、日本経済は停滞している。その中で年間40兆円に近づく医療費は重荷と見られがちだ。安倍政権は世界市場に打って出ることで「お荷物」を一転、成長の「エンジン」にしようと考えた。

 

 戦後の日本は保健対策の拡充、国民皆保険の導入で個人に重い負担を課すことなく、良好な健康水準を実現した。世界保健機関(WHO)は2000年、日本の医療制度を「世界一」と認定し、まさに「医出づる国」だった。ところが今、その結果でもある高齢化によって制度が揺らぐ。打開のため突破口が必要な状態だ。

 

 ただ、医療機器だけを見ても、日本は12年で約7千億円の輸入超過になっている。内向きだった日本医療の世界での存在感は小さい。劣勢を挽回しようと始まったのが、新興国への進出だ。それも機器だけを単体で輸出するのではなく、技術指導や病院の運営システムまで含めた日本式の病院をまるごと輸出しようと試みる。

 

 成長市場は世界中が狙っている。思惑通りに進むとは限らない。

 

 インド・バンガロールで今年3月、セコムグループと豊田通商が現地の財閥系企業と共に総合病院「サクラ・ワールド・ホスピタル」を開設した。日本の高度な医療やきめ細やかなサービスが売りだが、病院内に日本の医療機器がほとんどない。

 

 コンピューター断層撮影装置(CT)やMRIなどの大型装置からベッドに至るまで欧米勢が席巻した。米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンスが強い。セコムの布施達朗・医療事業担当取締役は「日本勢は価格競争で太刀打ちできなかった」と明かす。

 

 

客を安心させる

 

 ミャンマーで日本の医療機器を扱う代理店、ミャンマー・ユタニの小丸佳憲社長も「価格競争は激しくなるばかり」と認める。際限のない値引きで残るのは疲弊だけ。そこで小丸社長は価格で競うのをやめ、「売った限りは徹底的に面倒を見る」戦略に転じた。

 

 機器に不具合が出たとき、遠隔地であろうとも、電話対応などではなく、すぐに技術者を派遣する。すると顧客は安心し「多少高くても買ってくれるようになった」。「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしは日本の近江商人の家訓だ。この地でも「その精神が通じる」という。

 

 「日本式」は医療の神髄の部分でも海外で優位に立てるはずだ。英国の世界的な医学雑誌ランセットは3年前の日本特集号「国民皆保険達成から50年」でこう指摘した。「(その経験と知識から)日本は地球規模の保健医療に関わる取り組みを推進、支援する指導的役割を果たしうる」

 

 ミャンマーの農村地帯では研修を受けた既婚女性が妊産婦の家を訪問し、生活上のアドバイスをしている。同国の妊産婦や乳幼児死亡率はまだ高い。貧しいので医療機関の整備も進まない。そこで住民ボランティアが活躍し、成果をあげる。

 

 実はこの仕組み、日本の和歌山県にある母子保健推進員がモデルとなっている。日本の公益財団法人ジョイセフと国際協力機構(JICA)が05年、一部地域で導入し、今ではミャンマー政府が全国展開を進めるまでになった。日本への信頼は次につながる。

 

 市場獲得の皮算用だけでは限界がある。国境を越えた先でも日本医療が実を結ぶには、半世紀を超える経験と知識を基にした協力が欠かせない。自らを振り返るところから改革は始まる。



2014年8月24日
日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG13H0J_T10C14A8SHA000/